オリンパスオプトテクノロジー(株)に見るMQL導入効果

機械と工具 編集部  平井 里志

初出誌 機械と工具  2007年8月号

デジタル一眼レフカメラの交換レンズ部品加工,デジタルカメラの高付加価値部品加工などを行なうオリンパスオプトテクノロジー(株)。その金属加工グループ・金属鏡枠チームでは,作業環境改善と費用削減効果をねらいとして,今年4月にフジBC技研(株)製セミドライ加工システム「ブルーベ」を5台の設備による専用ラインへ一括導入した。

 ここでは,同社の作業環境改善における取り組みと,その一環で導入されたセミドライ加工システム(MQL)の効果について紹介する。


 オリンパスオプトテクノロジー(株)(長野県上伊那郡辰野町伊那富6666,Tel.(0266)41-2300)は,オリンパスグループ映像事業の製造・開発を担う国内生産会社である。同社は,2002年4月にオリンパス光電子(株)東京事業場,大町オリンパス(株),坂城オリンパス(株)の国内生産子会社3社とオリンパス(株)の開発・技術・製造の一部が統合して誕生した。映像部門の国内生産拠点であるほか,生産技術センタの役割も担っており,中国の現地法人が世界No.1の品質を実現するためにも貢献している。
 同社では,デジタル一眼レフカメラの交換レンズ部品の加工・組立,デジタルカメラの高付加価値部品加工を行なっている。そのうち,今回セミドライ加工システム(MQL)を導入した製造部・金属加工グループでは,交換レンズの鏡枠,機能部品,外装部品などアルミや真鍮を使用した部品加工および表面処理を行なっている。
5台の機械からなる専用ライン フジBC技研叶サ
「ブルーベセミドライ加工システム」
■完美活動による環境改善
 同社は,2006年に開催された第23回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2006)で,フジBC技研(株)のブースでセミドライ加工システムに出会う。その後,デモ機を借りて実験を繰り返し,今年4月に生産ラインへ導入した。
 今回のセミドライ加工システムの導入は,同社が行なっている完美活動に端を発する。
 完美活動とは同社が2004年1月から行なっているもの。簡単に言うと「経営直結形の5S活動」(金属加工グループ グループリーダー・原文由氏)である。5Sは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つで,完美活動はこの5Sをベースに「職場活性化」「生産性改善」「業務改革」「経営改革」へと段階的にレベルアップして,企業競争力の強化を担っている。
 原氏は,「完美活動を通じての“人づくり”が改善や改革を進める原動力になる」と言う。「今回のセミドライ加工導入に関して言えば,機械職場は切削油や切屑などにより,機械が稼働すればそれだけ汚れてしまいます。毎日油だらけになる床を清掃する。定期的にパーテーションの窓ガラスを拭く。その目的は,安全保全あるいは単に見栄えをよくするためだけではありません。床がきれいであれば,設備からわずかに油が漏れても気づくことができ,修理保全ができる。また,部品が落ちていたら異常に気づく。そのような微欠陥に気づくことが結果的に予防保全となり,そして品質向上につながります。さらには改善にまで結びつけて結果を出す。そのような活動を作業者個々が自発的にできるような“人づくり”が重要だと思っています」。
 完美活動による“人づくり”。そこから生まれたのが今回のセミドライ加工システムの導入である。
製造部 金属加工グループ 
グループリーダー 原文由氏
製造部 金属加工グループ 
金属鏡枠チーム チームリーダー
 河西 良明氏
製造部 金属加工グループ 
金属鏡枠チーム 主任
 清水 友和氏
 ■JIMTOF2006でMQLに出会う
完美活動が始まってから4年目,現在レベル3の業務改革の段階まで来ている。
 金属加工グループは,日々の床の清掃,窓ガラスの清掃による作業現場改善に行き詰まりを感じる。「毎日油だらけになる床を清掃する」「定期的にパーテーションの窓ガラスを拭く」。そのような対応で作業環境を保全してきたが,4年にわたる完美活動の中で,「床にこぼれ落ちる油をなくしたい」「飛び散るオイルミストをなくしたい」という思いから,「その発生源をなくす」という発想に辿り着いた。
 「金属加工グループ全員が手分けしてJIMTOF2006に行きました。みんなで打ち合わせをして,改善・改革につながるものを探してこようじゃないかと。そこで実際にフジBC技研(株)のセミドライ加工システムを見させていただきました」(金属加工グループ 金属鏡枠加工チーム チームリーダー・河西良明氏)という。セミドライ加工そのものの存在は知っていたが,実際に見てミストがほとんど出ないことに河西氏は驚く。「油の使用量が極微量だということで,これならいけるんじゃないかと。われわれが加工する被削材は真鍮でしたので,比較的実現性が高いと思いました」(河西氏)。
 フジBC技研(株)では,ユーザーが実際にセミドライ加工システムを導入する前に,デモ機の貸し出しを行なっている。購入する前に,十分にセミドライ加工の効果を確認してもらおうというものだ。
 JIMTOF2006の後,社内での検討を経てデモ機を借りた。導入が検討されたのは5台の機械で構成される専用ライン。加工対象はカメラの交換レンズのマウント部品である。金属加工グループは5台分のデモ機を借り,それから2か月以上にわたりデモ機を使用しての検討が続いた。「フジBC技研(株)もわれわれの無理な要求によく対応してくれたと思います」と,河西氏は導入に至るまでの間を振り返る。
 そして今年4月,満足する結果が得られたことから,実際に導入となった。
■満足のいくまで検討を重ねた
 ブルーベセミドライ加工システムが取り付けられた専用ラインの加工対象・内容を表1に示す。今回の導入に至るまで,2か月以上もの期間を要したことには理由がある。第一に5台の専用ラインに対する一括取り付けだったこと,第二に表1のCに挙げた表面旋削加工でびびりが発生してしまったことだ。セミドライ加工は少量の油を加工点にピンポイントでミストして塗布する加工。以前までの大量の不水溶性切削油による加工とは違い,加工条件には繊細さが要求される。これについては「油の供給量を少し増やしてみたり,工具形状を変更したりすることで解決しました」(金属加工グループ 金属鏡枠チーム 主任・清水友和氏)とのこと。
 4月に導入して以来,大きな問題もなく順調に生産が行なわれている。
加工部品 : デジタル一眼レフカメラの交換レンズに使用されるマウント
■MQL導入で作業者が一番喜んだ
 果たして導入によるメリットは大きかった。導入効果を表2に示す。作業環境が大幅に改善された。床に油がたまることがなくなり,設備周りや近くの棚へのミストの付着がなくなった。そのため,いままで清掃にかかっていた時間が40分から10分程度へと大幅に短縮された。
 また,作業者自身も切削油による汚れがほとんどなくなったため,作業者が非常に働きやすい環境になった。「セミドライ加工の導入で一番喜んだのは作業者ですね。5台の機械を1人で担当しているので,以前は油をかなり被っていましたから」(原氏)とのこと。
 当然,コストメリットも大きかった。切削油の使用量が1日7Lから1日約220ccへと大幅に削減された。金額にして19%削減である。そしてポンプが不要になったため,その電気料金が1日当たり約230円削減された。また,ミストコレクタを外すことができたため,そのメンテナンスの手間と電気量も軽減された。電気料金1日当たり217円の削減である。
 「作業環境を良くするだけというのでは,費用対効果という面から見ると,すぐに投資するのはなかなか難しいところです。しかし,今回のように環境改善プラスコストメリットが出るということであればまったく話が違ってきます」と,原氏は単なる環境改善だけに留まらない今回のセミドライ加工システムの導入を評価している。
 また,想定していた以外にも導入メリットがあった。「以前は油性の切削油を使用していたので,朝に機械を稼働させた段階では切削油が冷え切っていました。ですから機械を昼まで稼働させると油の温度が変わってしまい,品質に影響のないレベルですがそれによって部品の寸法変化が起こっていました。導入後,以前のようには変化しなくなりました」(清水氏)と,部品加工精度にも改善が見られた。
 工具寿命については「加工材が真鍮ということもあって,工具寿命はもともと長く,導入後,一度も交換はしていません」(河西)とのことで,現在データを取っている最中である。
 原氏は,今回のセミドライ加工システム導入について「非常に成功だと思っています」と言う。それほど効果の出た結果となった。
床の油汚れはほとんどなくなり、べとつきがなくなった。 タッピングセンタ内部。機械の油汚れも少なく、切り屑にはべとつきがない。
■自動盤にも適用したい
 原氏は今回の導入は非常に成功だったと言うが,導入したラインでの部品製造比率は製造部全体の1割程度。金属加工グループでは,レンズマウントを製造するライン以外にも自動盤を数多く設備している。主に真鍮の部品加工が24時間稼働で行なわれており,そこでもオイルミストがかなり飛散するという。「今後,フジBC技研(株)と検討を重ねて,自動盤でもぜひ採用していきたいですね」と河西氏は言う。また,レンズ枠となるアルミの削り出し加工でもオイルミストが出るため,そちらにも適用していきたいとのこと。金属加工グループは,今回の成功事例をほかの加工へ広げていきたいと考えている。
 また,「今回,セミドライ加工システムを導入したのは同社では私どもの金属加工グループが初めてです。今後,当社の他部署,たとえば金型部門を持つほかのグループなどに情報を提供して広げていきたいですね」と原氏は言う。

 今回のセミドライ加工システム導入で,大幅な環境改善とコストメリットを出したオリンパスオプトテクノロジー(株)。現在,完美活動の段階はレベル3まで来ている。今後も積極的に業務改善を行ない,同社の経営改革に貢献していく。


      
本原稿は初出誌出版社の許可を得て掲載しています。
 Copyright 工業調査会 MQL研究会 2007