大きいセミドライ化の波及効果

月刊・生産財マーケッティング ニュースダイジェスト社

初出誌  2005年4月
 機械加工現場では今やクーラントレス化、ドライ加工化が常識となりつつある。今のこの情勢を予見するかのようにフジBC技研(名古屋市瑞穂区)は89年、ITW社(米)のブルーベセミドライ加工システムの輸入を開始、93年には日本でライセンス生産を開始した。切削鉱油の使用が床面を汚すことに頭を抱える経営者は多く、同社のユーザーである黒田精機製作所もその1つ。「ブルーベ」の利用で職場環境はどう改善されたのかを開いた。(月刊生産財マーケッティング 若林浩哉)

 黒田精機製作所は自動車部品、特にブレーキ部品、エンジン部品、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)部品の製造を中心に展開する機械部品メーカーである。本社は名古屋市内で、岐阜県養老町と同海津町に生産工場を持つ。今回訪問したのは養老工場。同工場は新旧2つの工場棟から成り、03年設立の新工場で稼働中のNC旋盤にブルーベが導入されている。
 
NC旋盤に設置されたブルーベ給油機
油汚れのないコンベアに乗って製品が運ばれる。油性切削油だとこうは行かない。
ブルーベ導入で床面の油汚れが無くなった


◆床面の汚れが気になった

 床面の油汚れをなんとかしたかった−。同社の環境マネジメントはこの路線で進められ、02年にはIS0 14001を認証取得。そして、これはそのまま《ブルーベ セミドライ加エシステム》(以下、ブルーベ)導入の動機となった。それまではおが粉による油分吸収をしていたが、廃棄するおが粉を燃やすとダイオキシン発生につながるため事後の処分を心配した。
 NC単能盤で試験導入し、03年4月、アルミ加工のNC旋盤で本格導入へ。「空気が浄化され、工場内が清潔になった」。システム導入の成果は明快だった。ただ、コストについてはまだ完全に解析できてはおらず、「切粉処理や職場のクリーン維持対策などに要する費用すべてを勘案した上でブルーベと比較したい」段階だ。
 加工作業における電力消費量は全体の実に6−7割を占めるといわれる。ブルーベ導入前には、クーラントポンプによる発熱とこれに伴う室内冷却のため、電カコストは相当膨らんでいたことが推察される。ところが、ブルーベ導入後はクーラントポンプは必要でなくなり、したがって冷却も不要、電カコストは激減した。「工場が寒くなった」という言葉が、加工機の発熱が低減した状況を裏付けている。

◆セミドライ化で刃具を改良


 同社ではセミドライ化に合わせ、刃具を内製、工夫している。今回は一部の機械をセミドライ化したが、これらの機械で加工のノウハウを蓄積し、順次導入を図って行きたい」との考えだ。
 一般に、従来の切削油に比べると、潤滑性の点でセミドライ式が劣ることは事実だろう。刃具にかかる負も大きい。同社が刃具を改善し、内製、工夫に取り組むのもこうした理由による。ブルーベ切削油自体にも潤滑性が保たれているが、「刃具の技術向上を加えて製品の品質安定化につなげたい」(寺村公男氏)と期待を寄せている。

◆「作業環境、まだ改善途上」

 同社でもまだまだ油性の切削油を使う機器が大半を占める。「水溶性切削油も用いているが、チャック内部への浸入などの点で課題が残る」(野村尚弘氏)。その点、高い潤滑性を持ち、最小適量の油を使うブルーベは魅力的だ。実際、現場のブルーベヘの転換要望は強い。
  「安全で快適な職場づくりと生産効率の向上を実現していこうとする場合、従来の切削油による職場環境汚染を無視できない」。職場環境に対してもブルーベの貢献度は高いことが考えられる。油剤の管理、洗浄、廃棄が軽減されるとともに、植物油を主成分としているから人体に無害な点がうれしい。「まだまだ作業環境に関しては改善の余地がある」らしい。従業員のため、社会のため、会社が存続していくためにも環境への取り組みは重要課題との強い決意が感じられる。

 養老工場はハヨリが遊泳する揖斐川支流近くに建つ。清流の証しでもあるこの天然記念物を傷めてはならず、工場では油水分離槽を設けて雨水廃水を処理し、油分を回収した上で放水している。


油水分離槽。雨水廃水を浄化して河川へ
生産技術グループマネジャー野村氏(左)と養老製造リーダー寺村氏


  養老工場


 株式会社 黒田精機製作所
 資本金 7,000万円
 大正14年 創業
 代表取締役社長 黒田敏裕
 2000年 ISO 9002認証取得
 2002年 ISO14001認証取得

主製品ホイルシリンダー・ピストン、マスターシリンダー・ピストン、クラッチレリーズシリンダー・ピストン、ABS部品、オイルポンプ・シャフト、オイルポンプ・バルブ ほか、油圧部品など


      
本原稿は著者及び初出誌出版社の許可を得て掲載しています。
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