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金属加工業の切削油問題をどう考えるか

 金属加工工場の環境問題は、大きく分けて  1,省エネルギー、2,化学物質の管理・削減、3,廃棄物削減、4,作業環境の改善です。4の作業環境の改善は重要な問題ですが、直接コスト計算しにくいため、主に雇用問題を抱える中小企業の問題といえます。
切削油問題の課題は、前にも書きましたが、省エネルギーと廃棄物削減です。
切削油に関して省エネルギーを目的とした場合、まずやるべきことは現状の切削油量の適正化と切削油モーターの省エネルギー化です。また、廃棄物削減を目的とした場合は、切削油のロングライフ化があげられます。大手の工場では切削油廃油を他の可燃性廃棄物とともに自社内で焼却処理し、余熱利用を図っている場合もあります。

 MQLにより生産性を向上をさせたケース

 MQLセミドライ加工は、@生産性と環境が同時に向上するケース、A生産性は従来と同様だが環境メリットがあるケース、B環境メリットはあるが生産性が劣る場合の3パターンに分けられます。@は急速に導入され、水平展開されます。Aは、初期投資とメリットの天秤にかけられ、環境問題に熱心な企業は採用します。Bは採用されません。ここで、@の生産性と環境が同時に向上した場合について述べます。
1990年代当初、セミドライ加工の効果を最初に採用したのが建材業界でした。アルミ建材は切削油がなければ加工できないが、美観を重視するため、油を使用したくない加工です。そのため、セミドライ切削とニーズが一致しました。同時に、性能の高い植物油ベースの油剤を使用することで、切断用のノコ刃の寿命が飛躍的に向上しました。
また、1990年代の後半には、マシニングセンタの高速化に伴い、金型の切削法が変わりました。高速・低切込みの切削法により熱発生を抑え、高精度金型を作るようになりました。この切削法に対し、ミスト切削の有効性が認められ、多くの金型製造工場で採用されました。特に、小型のプラ型については、ミストのかけ方も簡単であり採用が増えました。
2000年代に入り、小径深穴用の超硬ドリルが開発されました。直径4-8mm、深さが径の20倍以上のドリルでは、ガンドリルやハイスドリルでしか切削できませんでしたが、超硬ドリルを使用することにより、従来の5倍の能率で加工が可能になりました。同時に、この加工では他の油剤よりもセミドライ切削との相性がよく、セミドライで切削することにより、切り屑が細かく破砕され、深穴から効率よく排出されることがわかりました。
このように、スポット的ではありますが、セミドライ加工は、加工法や工具との組み合わせで生産性の向上に大きく寄与しています。しかしながら、その他の多くの加工では、作業環境の改善と省エネに寄与するとはいえ、従来方法と比較して生産性を大幅に向上させるには至っていません。現状は、ISO14000の取得など作業環境の改善に熱心な工場で採用されています。

 後工程を考える

  MQLセミドライ加工は、切削油問題解決の手段として、生産性を向上させ、ある場合は環境を向上させながら採用されてきました。生産性というと工具寿命やサイクルタイムをメインに考えがちですが、切削油レス(MQL)が後工程に与える影響を考えることで、新たな生産性への貢献が出てきます。代表的な例として、銅やアルミなどの高価な金属は切り屑を回収して再溶解しますが、油や水にぬれた切り屑は再溶解しにくく、できるだけ乾いた状態で切り屑を回収したいというニーズがあります。また、部品加工では洗浄脱脂工程がつきものですが、セミドライ化することで、洗浄工程を簡略化できる場合があります。こうしたメリットを引き出すことで、生産性に寄与し、切削油の環境問題を解決しているところも少なくありません。

 作業環境への貢献

 切削油問題に関して、重要なニーズとしてあげられるのが、作業環境の問題です。
 中小の工場に行くと、工場に入ったとたん、工場が乾いた雰囲気か、ぬれた雰囲気かがわかります。切削油がたれたり、はねたり、また浮遊ミストとなったものが沈下して床がぬるぬるしている場合があります。夏場に水溶性切削油が腐敗して、すっぱいにおいがしたり、異臭がする工場もあります。特に、設備近傍に炉があったり、熱間鍛造、押出機等があると工場の気温が一年中高いため、水溶性切削油が腐敗しやすくなります。また、船舶、航空機、電力、建機などの重工業では門型マシニングセンタや床上型横中ぐり盤といった大型機械が使用され、スプラッシュガードがついていない機械も多く、切削油の管理・段取り・清掃が大変わずらわしくなっています。こうしたケースでは、セミドライ化ができれば、大きなメリットがあります。中小企業では、若者やパートの雇用を有利にするためにも工場環境の改善は重要です。また、MQLの採用により、工場全体が乾いた雰囲気となり、床のスリップがなくなり、作業性がよくなったという声も聞かれます。ただし、作業環境の改善は主観的・体感的な効果があるものの、数値化されにくいため、作業者に対するアンケートなどを通じて数値化していく必要があります。また、ISO14000取得を通じて、工場外の人に審査してもらうことで、自社の作業環境を改善していくのも手です。

 まとめ

  第一線の現場では、サイクルタイム、切削条件、工具寿命、精度、面粗さ、コストダウンを常に向上させるべく、限界に近い条件を探しており、セミドライ加工に移行しても、それらの条件をキープできるかどうかが問題となります。切削油は加工点の潤滑だけではなく、加工点の冷却、被削材の冷却と熱変異防止、機械全体の熱変異防止、切り屑のコントロールやフラッシングといったトータルな役割を担っているため、従来の大量の油剤を循環して流す方法が主流となっており、これを低減することは容易なことではありません。金属加工には、熱発生の大きな重切削もあれば、プレスやダイカスト後の形状を仕上げる軽切削もあります。機械や工具、金属材料も千差万別であり、どのような条件の場合、切削油低減が可能なのかを的確に診断する必要が出てきます。 そのためには、ソフト面でのデータ収集が重要になってきます。千差万別の被削材と切削方法に対し、工具寿命、精度確保、面粗度、サイクルタイム、コストにどのような影響が出るのかを把握する必要があります。セミドライ加工の普及は装置や油剤といった製品とともに、加工ソリューションを提供できるエンジニアリングが必要不可欠となります。同時に、既設設備をセミドライ化する場合は、現場での工夫も必要になります。切り屑の除去のための工夫やノズルの設置など、機械を見て診断すべきことも多くあります。
 MQLを導入しようとお考えの工場は、エンジニアリング経験の豊かなメーカーに相談することをお勧めします。いくつかのメーカーがトライアル、デモを受け付けており、MQLに関して納得して段階を追って導入することができると思います。


2005.1.15
出筆 MQL研究会  井上正之 
本文は新しい情報に基づき、適宜書き換えていきます。